かわいがっていた犬との辛い別れを経験した母の意外な行動
ミニチュアピンシャーのりゅうは、赤ちゃんの頃はずっと、私と一緒にいました。でも、途中から母と一緒にいる時間のほうが長くなったんです。
ある日、畳の上に仰向けに寝転がっていた私のほうに向かって、トコトコと幼いりゅうがやってきました。そして、急にコトンと倒れたかと思ったら、私の首の上に自分のアゴを置いてくつろいでいるんですね。
そのかわいすぎる犬のしぐさを見ていた母が、「今日は、私が一緒に寝る」って言ったんです(笑)自分にも、こんな風に懐いてもらいたかったのでしょうか。
それからだったかな。りゅうが母の布団で眠るようになったのは。
その後は、りゅうにとっては母が一番大事な人になりました。母が出かけているときは、ずっと窓から外を覗いて待っていたんですよ。
かわいがっていた犬との辛い別れが訪れる
ある夏の終わりの朝でした。
ついに、かわいい愛犬との別れの瞬間が訪れることになります。
10日間ほど闘病した後、安楽死をせざるを得ない状況でした。覚悟はしていたとはいえ、最後のお別れのときは、やはり、耐え難いものがあります。
2度と……。もう、2度と、会うことができなくなるのですから。
動物病院で見た母の涙
早朝の動物病院。通常の診療時間の前に特別に先生が診てくださっていました。
点滴の管や心拍数などを示す機械につながれている愛犬の姿を目にするのは、かなり辛いことです。口元には酸素マスクがあてがわれています。
すでに意識がなくなっている様子でした。それでも私は、反応がない愛犬の耳に口を近づけて、「りゅうちゃん、りゅうちゃん」と呼びかけていました。
その時です。
背後から、すすり泣く声が聞こえてきました。振り返ると、母が泣いていたのです。
気丈な人で、めったに涙を流すことはないのですが、さすがに辛かったのでしょう。
私は母の背中を支えて、りゅうの側に連れて行きました。
「りゅうちゃん、ずっと、いっちょ(一緒)やね……」と、元気な頃のりゅうに話しかけるように、幼児語を交えて語りかける母。
その後、すべての処置を終え、大好きな母の腕の中で、りゅうは逝きました。
あかん、泣けるな。やっぱり。
闘病生活と最後の日のことは、まだ冷静に書くことができません。
母の意外な行動
最後のお別れの日からしばらく経った、ある日のことです。
私の家に、もらいものの犬の絵葉書きがあったんですね。愛くるしいワンコたちの写真がプリントされている絵葉書きです。10枚くらいあったのかな。
それを、母が全部破り捨てていたんです!
「こんなん、いらんわ。見たくもないわ」とつぶやきながら。
その様子を見た私は、思わず固まってしまいました。あまりにも異様な光景に。
母は、かわいい犬たちの絵葉書きを破り捨てるなんてことをする人ではありません。「りゅうがいなくなって、よっぽど辛いんだな……」と思いました。
叔母の心遣い
りゅうを亡くした母や私の様子を気遣って、母の妹である私の叔母が電話をかけてきてくれました。
「調子はどう?大丈夫?」とたずねる叔母に、絵葉書きのことを話しました。
「そっかぁ。やっぱり、こたえてるんやなぁ……聞いてよかった」と叔母は言いました。叔母にとっても、母の行動はかなり意外だったようです。
ペットロスからの立ち直り方は人それぞれ
ペットを亡くしてからの辛い日々。その深い悲しみからどんな風にして立ち直るのかは、人それぞれだと思うんですね。
私の場合は、涙が枯れるまでひたすら泣き、同じ境遇の人たちが集まる掲示板を見に行ったり、ブログや動画を見たりしていました。
愛犬が夢に出てきて、笑っている顔を見せてくれたことが一番の癒やしになったと思います。それから、愛犬に供える花を育てることで、どんどん元気が出てきました。
母の場合、ボロボロになった心を癒してくれたのは、絵を描くことだったのかもしれません。
愛犬の絵を描く
りゅうの遺骨の一部は、地元の動物霊園にある共同墓地に納めました。その動物霊園では、あるユニークなことが行われていたんです。
それは、霊園の敷地内にある石に、亡きペットたちの絵を描くということでした。そして、絵を描いた石は、共同墓地の好きな場所に置いておくことができるのです。
私たちが霊園に行った頃には、もう、ほとんど石が残っていませんでした。残り少ない石の中から、小さくて、三角形のような形の石を選びました。
母がその石に絵を描くことになりました。
どんなりゅうの姿を描こうかと、写真を見ながらあれこれ悩み、カラーペンなどを用意している母は、なんだか楽しそうでした。
記事の上のほうに載せてあるのが、できあがった石絵の写真です。
立体的な絵
画用紙やキャンバスと違って、石は立体的です。愛犬の絵は、石の全部の面に描いてあるんですよ。
最初に載せた写真の続きはこんな感じです。
続いて、こうなります。
左上に、ミニピンの短い尻尾が見えていますよ。
この絵はね、青い空に白い雲、きれいなお花がたくさん咲いている天国なんです。天国で、りゅうが元気に遊んでいる様子を描いているんです。
石の最後の面には、「天国のりゅうちゃんへ」というメッセージが入っています。
大好きだったボール
一番最初の写真には、りゅうが大好きで、よく遊んでいたボールが描かれています。このボールは、りゅうがまだ幼い頃に叔母が買ってくれたものなんです。
こんな風にして、いつも遊んでいました。上半身を低くして、お尻を高く上げるのは、りゅうのお得意のポーズです。
石に描いた絵は、この写真のりゅうの姿なんですよ。
叔母の涙
叔母には、動物霊園のことや石に絵を描く話をしていました。
完成した石絵の写真を撮って、叔母に送ったんですね。写真を見ていた叔母は、泣けてきてしまったそうです。石に絵を描くといっても、もっと簡単なものだと思っていたそうで。
「こんなに丁寧に描くとは思ってもみなかった。気持ちがこもっているのがすごく伝わってくる……」と。
この絵を描くことで、母の辛い気持ちが少しは癒やされたのではないのかなぁと思うのです。
共同墓地に並んだペットの絵
正修寺別院「縁の里」動物霊園の共同墓地には、石に描かれたペットの絵がたくさん置いてあります。
りゅうの絵は、少しくぼんでいる隅っこに置いてきました。りゅうは怖がりで、他の犬が大嫌いでしたから。囲いのようになっている場所なので、安心できるかなと思って(笑)
この写真だけではわかりにくいですけれど、この場所は大きなひな壇のようになっていて、左のほうや上のほうにもずらーっとペットたちの絵が並んでいるんですよ。
この動物霊園のことは、また別の記事で書きたいと思っています。